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京都地方裁判所 昭和59年(行ウ)19号 判決

京都市南区吉祥院中島町七一

原告

西村健三

右訴訟代理人弁護士

佐藤克昭

高田良爾

京都市下京区間之町五条下ル大津町八

被告

下京税務署長

小幡隆

右指定代理人

井口博

狩野礒雄

村田巧一

西田饒

山藤和男

大黒宏明

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

一  原告

1  被告が原告に対し昭和五八年三月二五日付でした原告の昭和五五年分及び昭和五六年分の所得税の各更正処分並びに各過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二主張

一  原告の主張

1  原告は、運送業を営む者であるが、被告に対し本件係争年分の確定申告をした。

被告は、昭和五八年三月二五日付けで原告に対し本件各更正処分及び各過少申告加算税賦課決定処分(以下、本件各処分という)をした。

原告は、本件各処分に対し、異議申立及び審査請求をした。

以上の経過と内容は、別表1記載の通りである。

2  しかし、本件各処分は左の理由で違法であるから、取消を免れない。

(一) 本件各処分には推計課税の必要がなかつた。即ち、被告の職員は、原告に対する税務調査にあたり、調査の理由を開示せず、原告が「資料を集める。それからにしてくれ。勝手に反面調査をしないように。」と要求したにもかかわらず、違法な調査に基づき本件各処分をした。

(二) 被告は、原告の本件係争年分の所得金額を過大に認定した。

3  よつて、原告は被告に対し、本件各処分の確定申告にかかる所得額を超える部分の取消を求める。

二  被告の答弁

原告主張の右事実中、1の事実は認め、2の事実は争う。

三  被告の主張

1  被告の部下職員は、昭和五八年二月一八日から数回にわたつて原告の住所地に臨場し、本件係争年分の所得金額の計算の根拠を尋ね、その基礎となる帳簿書類等の提示と事業内容の説明を求めたが、原告は「所得金額の計算方法は民商の研修会等で説明を受けて知つており、計算に誤りはない」等と非協力的態度に終始し、帳簿資料の提示をせず、調査に応じなかつた。

その為、被告はやむなく反面調査のうえ推計課税の方法で本件各処分をしたのであつて、本件各処分に手続的暇疵は無い。

2  原告の本件係争年分の所得金額は、別表2記載の通りである。

これを詳述すれば、

(一) 収入金額

原告は、肩書住所地において、京都市南区吉祥院中島町七九番地所在の訴外米沢工業株式会社の専属の運送業者として、「特定貨物自動車運送業」を営む者であつて、全収入金額が同米沢工業からのものである。

(二) 算出所得及び特別経費(給料賃金)

被告は、算出所得及び特別経費(給料賃金)の額を算定するに当たり、別表3及び4記載の同業者所得率及び同業者雇人費率を用いたが、その同業者の選定は、次の通りである。

大阪国税局長は、原告の事業所(看書住所地)の所在地域の所轄税務署である被告及びこれに隣接する地域である右京、伏見、東山及び中京の各税務署長に対し次の条件を全て満たす同業者を抽出するよう通達指示したところ、抽出し得た同業者は別表3及び4記載の通りであつた。

(1) 本件係争各年分に管内に事業所を有して特定貨物自動車運送業を営むものであること(但し、ダンプカーによる運送業を営んでいる者を除く)。

(2) 他の事業を兼業していないこと。

(3) 年間を通じ継続して事業を営んでいること。

(4) 運送業務を外注又は備車に依存していないこと。

(5) 継続して青色申告書を提出していること。

(6) 不服申立又は訴訟提起をしていないこと。

(7) 本件係争各年分における収入金額がいずれも二四〇万円以上、一二七〇万円未満の範囲内にあること(これは、原告の前記収入金額の半額を下限とし、倍額を上限としたものである)。

このようにして抽出された右同業者は、事業場所、事業規模、事業形態など原告と類似性が有り、これらの同業者は青色申告納税者であるから、その数値は正確である。従つて、右同業者から同業者率を算定し、これを被告に適用することには合理性が有る。

(三) 結局、以上によれば、原告の本件係争年分の事業所得は、

五五年分は金二六五万六七三五円

五六年分は金三三六万九五四二円

となり、本件各更正処分を上回つている。

3  よつて、本件各処分は適法である。

四  被告の主張に対する原告の答弁

1  被告の部下職員が原告の住所地等に臨場したことは認めるが、その日時、内容は否認する。

2(一)  被告主張の本件係争各年分の収入金額は認める。

(二)  被告主張の推計の合理性についての主張は争う。

被告主張の同業者は、各年分とも殆どが給料賃金支払のない同業者であつて、一方原告は次の通り雇人費を支払つているのであるから、雇人のいない同業者も合わせて算出した雇人費率を原告に適用するのは誤りである。

(1) 五五年中にアルバイトを雇用して金八〇万円を支払つた。

(2) 原告は五六年一月九日から二月二日まで社団法人京都保健会吉祥院病院に冠不全のため入院しその後も通院したため、その間、弟である訴外西村末広を雇い入れ、同年一月分と二月分の各月四五万円の合計金九〇万円を支払つた。

第三証拠

本件記録中の証拠関係目録記載の通りである。

理由

一  原告が肩書住所地において運送業を営み本件係争年分の確定申告をしたこと、被告が本件各処分をしたこと、原告が本件各処分に対し異議申立及び審査請求をしたこと、以上の経過と内容が別表1記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

二  本件各処分と推計課税の必要性

原告は、被告の部下職員が、調査の理由を開示せず、かつ原告の承諾なしに反面調査をするなどの違法な調査をなしたから、本件各処分が違法であると主張する。

原告本人尋問の結果によれば、原告は、被告の部下職員が昭和五八年一月一九日に原告方を訪れて「都合のよい日に架電してくれ」との連絡箋を入れ、原告から「同月二五日には都合がよい」との回答をえて、同日原告方に臨場し、本件係争年分の所得金額の計算の基礎となる帳簿書類等の提示と事業内容の説明を求めたのに対し、「いつぺんに集まらんのでちよつと待つてくれ。いつになるかは分からん」と回答したのみで、その後においても帳簿書類の提示と事業内容の説明をしなかつたことが認められる。

そうとすれば、このように原告が帳簿資料に基づいてその事業内容を説明せず、調査に協力しなかつたからには、被告が反面調査のうえ推計課税の方法で本件各処分をするも止むを得ないものがあつたと言うべきであつて、原告の主張するところは、推計を違法ならしめる事由とはなり得ず、本件各処分にこの点での手続的暇疵はない。

三  推計の合理性と所得金額の認定

1  原告の収入金額が別表2記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

2  同業者率について

証人桜井進の証言により真正に成立したと認める乙二号証ないし六号証並びに同証言によれば、被告が、被告主張の通りの基準で別表3及び4記載の通り同業者の申告事例を抽出したことが認められる。

3  原告が同業者率の合理性につき反論する雇人費について

(一)  原告は、昭和五五年中には、三月とか九月に時々学生アルバイトを雇い、年間八〇万円ほどのアルバイト料を支払つたと供述するけれども、その氏名、期間、日数等は分からず、支払つた給料も大体八〇万円程度というのみで具体性を欠き、同供述は採用し難く、他にこれを認めるに足る証拠はない。

(二)  原告は、昭和五六年一月九日から二月二日まで心不全で吉祥院病院に入院したため、同年一月と二月には、当時左官屋をしていた弟の西村末広を臨時雇いし、各月金四五万円の合計九〇万円を同人に支払つたと供述し、成立に争いがない甲一号証によれば右入院の事実が認められる。しかし、証人桜井進の証言により真正に成立したと認める乙九号証及び一〇号証並びに同証言によれば、西村末広は原告と同じく米沢工業に出入りする運送業者であつて、昭和五六年一月にも金四七万六一〇〇円と、ほぼ例月通りの運賃支払を受けているのみであること、原告に対する同月分の運賃支払のないことが認められるので、この事実に照らすと、右原告の供述は措信し難い。

4  そうすると、被告が選定した別表3及び4記載の同業者は、その選定基準に照らし、業種、事業場所、規模などが原告の事業と類似していると認められ、かつ、無作為に抽出されたもので、青色申告納税者でその数値は正確であると認められるから、これら同業者から同各表記載の同業者所得率及び同業者雇人費率を算定し、これを被告に適用することには合理性が有るとしなければならないところ、これに基づいて原告の本件係争年分の事業所得金額を計算すると、別表2記載のとおりとなること、計数上明らかである。

以上によれば、本件各処分は、右に認定した事業所得金額の範囲内であるから、被告が原告の本件係争年分の事業所得金額を過大に認定した違法はない。

三  よつて、原告の請求は全て理由がないからこれを棄却することとし、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井関正裕 裁判官 田中恭介 裁判官 榎戸道也)

別表1

課税の経過

〈省略〉

別表2

事業所得金額の算定

〈省略〉

別表3

昭和55年分同業者所得率等一覧表

〈省略〉

別表4

昭和56年分同業者所得率等一覧表

〈省略〉

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